小売業界のAI活用 | 生成AIや導入の課題などを解説

2024/06/13
執筆者:
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DataRobotで通信・小売・人材業等のお客様を担当しているAI サクセスディレクターの城 賢一郎です。

本記事では、AIと機械学習が小売業界にもたらす進化や影響、課題、そして将来の展望について詳しく掘り下げて解説します。

小売業界におけるAIの重要性

現代の小売業界において、AIの導入は単なるオプションではなく、必須の要素となっています。この技術革新は、顧客の購買体験を根本的に変革し、ビジネス運営の効率性を画期的に向上させています。AIを駆使したデータ分析により、顧客の購買傾向や行動パターンの深い洞察が得られ、小売業者は顧客ニーズをより理解し、パーソナライズされたサービスを提供できるようになります。

在庫管理の最適化からマーケティング戦略の策定に至るまで、AIは小売業界における様々なプロセスにおいて中心的な役割を果たします。顧客の関心を引き付け、購買意欲を高めるキャンペーンやプロモーションの効果を最大化することにより、企業は競争力の向上、売上の増加、コスト削減、そして顧客満足度の向上を実現します。

小売業界が持つデータの歴史と特徴

小売業界のデータ活用は、POSシステムの導入によって劇的に変化しました。このシステムにより、販売データの自動記録が可能となり、効率的なデータ収集が実現しました。データベース技術の進化により、小売業者はPOSデータだけでなく、顧客情報、商品情報など様々なデータを一元的に管理できるようになりました。こういった背景から、小売業界が保有する膨大なデータセット、例えば販売データ、顧客行動データ、在庫データ、市場動向データなどを活用することが可能になり、これらのデータを通じて、市場のニーズや傾向をより正確に捉え、ビジネス戦略を練る上での貴重な洞察を得ることができます。

AIがもたらす小売業界への効果

ここからは、「AIがもたらす小売業界への効果」について解説します。

効果1:小売とAIのシナジーは「顧客中心の戦略とパーソナライズの強化」

小売業界におけるAIの最大の利点の一つは、顧客を中心にした戦略の実現です。AIは膨大な量の顧客データを分析し、購買傾向、好み、行動パターンを理解します。この深い洞察に基づき、小売業者は顧客一人ひとりに合わせたパーソナライズされたショッピング体験を提供できます。AIによる個別化された商品推薦やカスタマイズされたマーケティングキャンペーンは、顧客の満足度を高め、リピート購入を促進します。

効果2:オペレーショナル効率の向上と革新的なビジネスモデルの確立

AIは小売業界におけるオペレーショナル効率を大幅に向上させます。在庫管理、サプライチェーン最適化、価格設定戦略など、小売業の各プロセスはAIにより、よりスマートかつ効率的になります。例えば、需要予測を用いた在庫管理は、過剰在庫や品切れのリスクを減らし、コスト削減や売上向上に寄与します。また、AIを活用した新しいビジネスモデルの開発は、小売業界に新たな成長機会をもたらし、他社との競争における優位性を確立します。

ユースケース 小売

生成AIによる小売業界の変革

昨今、大きく注目を集めている生成AIに取り組む企業も増えてきています。業界にかかわらずグローバルのトレンドでは社内問い合わせの自動化テーマに着手する企業が多く出てきていますが、小売業では社内活用に留まらない、更に進んだ取り組みも始まっています。例えばshopifyではいくつかの主要なキーワードを入力することで、商品説明文が自動生成されるサービスを提供しています。日本国内の事業者でもZOZOTOWN、メルカリ、楽天などが生成AIを活用したサービスを提供しており、今後も拡充されていくでしょう。

小売業界におけるAI活用と導入の課題

小売業界におけるAIの急速な発展と導入は、顧客体験の向上とオペレーショナル効率の大幅な改善をもたらしています。しかし、この技術革新にはいくつかの課題も伴います。

課題1:データプライバシーとセキュリティ

AI技術の利用が拡大する中で、データプライバシーとセキュリティに対するガバナンスはますます重要になっています。日本の小売業におけるデータプライバシーとポリシーは、「個人情報の保護に関する法律」に基づきます。事業者は、個人情報の収集目的を明確にし、顧客の同意を得た上で、その目的内でのみ情報を利用します。第三者への提供は原則禁止されており、個人情報の安全管理措置を講じ、正確かつ最新の状態を保持する必要があります。また、顧客は自己情報の開示や利用停止を求める権利を持ちます。違反には罰則があり、事業者は顧客信頼とデータプライバシー保護のため厳格に法律を遵守する必要があります。

課題2:AIガバナンス

米国小売業界では、AIの活用が急速に進展しており、NRF(米国小売業協会)がAIガバナンスの明確な原則を策定する必要に迫られています。一方で、日本国内の小売業界においてはガバナンス面での取り組みはまだ道半ばで、さらなる推進が求められています。AIのメリットを最大限に活かしつつ、リスクを適切に管理し、消費者の信頼を確保するためには、ガバナンスが極めて重要です。NRFの原則が示すように、AIツールの監視、人権侵害リスクの回避、従業員への影響管理、ベンダー管理など、様々な課題に業界全体で取り組む必要があります。一部の国内大手企業でもAIガバナンスに着手していますが、中小企業を含む業界全体への浸透が課題となっています。AIの恩恵を持続的に享受するためには、NRFの原則に倣ったガバナンス体制の構築が不可欠です。

課題3:技術的な課題と統合の難しさ

AI技術を既存の小売業務やシステムに統合することは、技術的な課題を伴います。異なるデータ形式の統合、レガシーシステムとの互換性、新技術導入の運用上の障壁などが挙げられます。これらの課題を克服するには、柔軟でスケーラブルなAIソリューションの選択と、異なる部門間でのコラボレーションが鍵となります。パイロットプロジェクトを通じて徐々に導入を進めることで、リスクを最小限にし、システムへのスムーズな統合を実現できます。

課題4:AIに対するスキルと知識の不足

AI技術の有効な活用には、専門的なスキルと知識が必要ですが、多くの小売業者は人材不足に直面しています。従業員のスキルと知識を向上させるためには、継続的な教育とトレーニングが欠かせません。内部研修プログラムの提供や外部専門機関とのパートナーシップを通じた教育プログラムの活用、実践的な経験の提供が有効です。また、AI技術の専門家の採用やAIソリューションプロバイダーとの協力も重要です。

AI人材教育

小売業界におけるAI活用の課題対策法

前述した小売業界が直面する主要なAI関連の課題には、実践的な対策方法もあります。

まず、小売業界におけるAIの課題に効果的に取り組むには、戦略的かつ実践的なアプローチが必要です。データプライバシーとセキュリティについては、引き続き法律の遵守が必要となり、また最新のセキュリティ技術の導入とセキュリティ意識の向上が求められます。技術的な課題への対応としては、クロスファンクショナルチームの活用と段階的な導入が有効です。スキルと知識の不足に対しては、教育とトレーニングの提供、専門家の採用が重要となります。これらの対策を実施することで、小売業者はAI技術の可能性を最大限に活用し、持続可能な成長と発展を実現することができます。

小売業界におけるAI活用の未来

DataRobotが考える、「小売業界におけるAI活用」の今後の展望について解説します。

データとAIがさらなる進化を遂げる

データとAI活用は小売業界の未来を根本から変革する力を持っています。特に以下の三つの主要なトレンドが、業界の進化を牽引しています。

非対面販売の増加

 オンライン販売の拡大と無人店舗の普及は、顧客の購買体験を再定義しています。このような業態の出現により24時間いつでもどこでもショッピングが可能になり、消費者の利便性が高まっています。

OMO (Online Merges with Offline)

オンラインとオフラインの融合は、顧客体験を一層豊かにします。物理的な店舗とデジタル空間の境界が曖昧になることで、顧客はオンラインでの情報収集とオフラインでの実際の購買体験をシームレスに結びつけることができるようになります。

データに基づくパーソナライズマーケティング

データに基づく新しいサービスや製品の開発は、市場に新鮮な風を吹き込みます。データ分析と機械学習を活用して、消費者のニーズや嗜好を予測し、パーソナライズされた体験を提供することができます。

これらの変化に適応し、競争力を保つためには、小売企業は複数の戦略的取り組みを進める必要があります。具体的には、データ分析や機械学習に関する専門人材の育成、強固で柔軟なデータ基盤の構築、およびデータの倫理的な使用に関する課題への対応が求められます。これにより、企業はデータを効果的に活用し、顧客ニーズに応じたイノベーションを実現し、小売業界の新たな未来を築くことができるでしょう。

小売業界において生成AIの活用範囲が拡大する

日々、注目度を増している新たなテクノロジーである、生成AI。生成AIの最大の特徴は、単にデータを分析するだけでなく、新しいコンテンツやアイデアを「生成」することです。小売業界でこれがどのように機能するかというと、例えば、生成AIは消費者の好みや傾向に基づいて、カスタマイズされた製品デザインやマーケティングコンテンツを作成することができます。また、生成AIと予測AIを組み合わせることで、予測AIは消費者のフィードバックや傾向を分析し、分析結果を元に生成AIで新しい製品ラインやサービスを提案することも可能です。生成AIの応用により、小売業界はよりダイナミックで個人化された顧客体験を提供できるようになります。これにより、顧客の満足度を高めると同時に、新たな市場機会を探ることができます。総じて、生成AIの登場により予測AIをコラボレーションすることで、小売業界において新たな創造性と効率性をもたらす重要なステップです。この進化は、顧客体験の向上、ビジネスプロセスの最適化、新たな収益源の創出という形で、小売業界におけるAIの役割を再定義していくでしょう。

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小売業界に変革を起こすAI。企業がいま取り組むべき対応とは

AI技術は小売業界に革命的な変化をもたらす潜在力を持っていますが、その成功はデータプライバシーとセキュリティの確保、技術的な課題の克服、スキルと知識の向上への取り組みに依存しています。

これらの課題に対する効果的な対策を講じることで、小売業者は顧客体験の質的変革、運用効率の向上、そして革新的なビジネスモデルの創出を実現することができます。未来の小売業界は、AI技術と人間の創造性が融合し、よりパーソナライズされた、効率的で、革新的なサービスを提供する方向へと進化していくでしょう。小売業界の企業は、AIの積極的な導入と活用を通じて、顧客体験の向上とビジネスの成長を実現することができます。ぜひ、本記事で紹介した事例や対策法を参考に、AI活用の第一歩を踏み出してみてください。

執筆者について
城 賢一郎
城 賢一郎

AI サクセスディレクター

新卒で大手通信企業に入社。営業職を経て、社内のデジタルツール活用推進組織へ異動。
各種AIツールを活用し、各組織業務の効率化・高度化・高速化を支援、推進。2021年にDataRobotへジョインし、AIサクセスディレクターとして、小売・消費材・食品/通信/サービス業界など幅広いお客様へAI活用推進の支援をリード。

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