DataRobotのデータサイエンスアソシエイトの菅原です。前回のブログに続き、③営業 ④育薬 プロセスでの機械学習活用についてご紹介いたします。
営業プロセスと機械学習の活用法
医療用医薬品と一般用医薬品で販路は変わりますが、今回は医療用医薬品にフォーカスしてご説明します。医療用医薬品は医師によって患者さんに直接処方されたり、もしくは病院や診療所などで、医師が診断した上で発行する処方箋に基づいて、薬剤師が調剤して患者さんに供給されます。
製薬企業の営業担当者はメディカル・レプリゼンタティブ(MR)と呼ばれています。MRには自社製品の効果・効能を専門的観点から詳しく説明できる能力が必要で、同時に医薬品の有用性や安全性などの情報を医療従事者に伝えて薬の適正使用を促進する役割も担っています。
MRの働き方は、昔は人海戦術的な側面がありました。しかし前回ご紹介したように製薬企業を取り巻く環境が大きく変わり、MRの働き方やマーケティング方法も、より効率的な営業活動を目指した方向へ大きくシフトしています。その変化を受けて、MRの生産性向上に繋がるさまざまな施策を検討するために機械学習が活用され始めました。
例えば、製薬企業が保持する各病院の薬の処方量や診療科別の処方量などの情報を活用して、ある医薬品の将来需要を予測する機械学習モデルを作成し、MRがより的確で効率の良い営業活動を行えるようにする、などのユースケースが生まれています。
その他、DataRobotユーザー製薬企業様が実践されている営業プロセスでの機械学習のユースケースをまとめると、下記のようになります。
育薬プロセスと機械学習の活用法
「育薬」という言葉は一般にはあまり馴染みがないかもしれませんのでご説明します。
医薬品が医療施設で使われるようになると、医師が患者さんに薬を投与し、また多くの患者さんが服用することで情報が蓄積され、そこで得られた情報をもとに、さらに安全な使い方の検討や改善が行われます。
また、既存薬が意図していた元々の疾患とは別の疾患に薬効があることを見つけ出すドラッグリポジショニング(既存薬再開発)という研究も行われます。このように、薬が上市されてから得られた「学び」をもとに行う、薬の継続的な改良を育薬と呼びます。
育薬分野でも機械学習が貢献できる余地は大きいと言えます。その理由は薬が実使用された状況での様々なデータ(リアルワールドデータ)を得られるからです。
治験(臨床試験)では服用方法・時間・食事などの条件が厳密に管理された環境下で薬効などの評価が行われますが、上市後の医療現場ではより幅広い環境下で薬が使用されるため、治験では気づかなかった薬の影響・効果が分かってくる可能性があります。
しかし、リアルワールドデータには多種多様な特徴量が含まれ、また治験データと比べてノイズやデータの偏りが大きいと考えられるため、その中から本当に意味のあるパターンを探索するのに機械学習は有効な手段と言えます。
例えば、医薬品上市後に収集されるデータから機械学習モデルを作成して副作用の減少条件を探索したり、他の疾患に有意な効果が出ているかなどの分析に機械学習が使われています。
また、最近注目されている機械学習の高度なユースケースでは、遺伝子構造に効果がある化合物の予測があります。これは機械学習モデルを利用して遺伝子レベルで「薬が効く、効かない」をシミュレーションすることです。
がん治療では万人に効く特効薬はないので、奏功確率が高いと思われる薬を医師が判断して逐次的に投薬治療を行います。そのような医療現場で機械学習モデルが治療方針検討の手助けになり得るとして大きな期待が寄せられています。
育薬プロセスでの機械学習のユースケースをまとめると、下記のようになります。
まとめ
以上、2回に渡って製薬業界で機械学習がどのように貢献出来るかをご紹介しました。
薬価改定の影響で、日本国内の製薬企業にとっては業界全体で厳しい状況が続くと予想されていますが、故に業界全体で事業構造改革が急ピッチで進められており、その中でAI/機械学習も能動的に活用されています。
・創薬プロセス
時間やコストが多く掛かり、難易度も高い新薬開発ですが、候補化合物やデザイン方向性のスクリーニングで機械学習モデルが活用され、開発期間の短縮や開発経費の削減に貢献しています。
・製薬プロセス
”GMP”に則った厳しい管理が求められる製薬工程ですが、歩留まり向上や需要予測、不良の要因分析などで機械学習モデルが活用され、コスト削減や生産性向上に貢献しています。
・営業プロセス
高い生産性を意識した営業活動が求められていますが、売上予測やMRの営業支援で機械学習モデルが活用され、より的確で効率の良い営業活動に貢献しています。
・育薬プロセス
医薬品上市後に収集されるデータを使った副作用の減少条件の発見や、他の疾患に有意な効果が出ているかなどの分析で機械学習モデルが活用され、効率的な育薬に貢献しています。
DataRobotはすでに多くの国内製薬企業に導入実績があり、弊社のデータサイエンティストも多数の製薬企業ユースケースに関わりながら、「お試し、PoC」に終わらない製薬企業のAI業務実装&AI民主化をご支援させていただいております。
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参考書籍:
長尾剛司(2018):「よく分かる医薬品業界」 , 日本実業出版社
執筆者について
菅原 功(Isao Sugawara)
データサイエンティスト
DataRobot データサイエンティスト。主に製薬企業様の AI 活用をサポート。社内での AI プロジェクトの推進や、DataRobot を有効に活用するための Python スクリプトの顧客への提供なども行っている。機械工学をバックグラウンドにしており、携帯電話や自動車部品などの製造業に精通。JDLA のディープラーニング E 資格所持。
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