エグゼクティブが知っておきたいAIの民主化のための組織構築

2018/11/02
執筆者:
· 推定読書時間 3  分

DataRobotでBusiness Developmentを担当している五十嵐です。

今年の春頃にAIの民主化に向けたAI Driven Enterprise Packageを発表させて頂きましたが、DataRobotが現在目指している民主化のアプローチについて、説明させて頂きます。

DataRobot、「AI-Driven Enterprise Package」を4/1から提供

DataRobotは、データ・サイエンティストだけでなく、アナリスト(ビジネス・アナリスト、データ・アナリストなど)にも簡単にお使い頂く事が可能な機械学習の自動化プラットフォームです。そのためアナリストなどのビジネスユーザーがシチズンデータ・サイエンティストとして、企業内の様々な課題を機械学習によって解決する事も可能になります。DataRobotをお使い頂いているリクルート様、パナソニック様など、機械学習の自動化によるAIの取り組みを全社での取り組みとして推進している企業が増えてきております。 

このように全社をあげてAIへの体制強化を目指す企業は増えてきておりますが、しかしながらどうやって推進したらよいのかよく分からず、とりあえず予算を立てたり、組織を立ち上げる企業は少なくありません。

本ブログでは、AIの民主化に向けてどのようにビジネス課題を整理し、また組織化していけば良いかについて、DataRobotの取り組みを簡単にご紹介させて頂きます。 

ーーー【 目次 】ーーーー

  1. AI民主化で求められる組織とは?
  2. AIを全社展開するためのロードマップ
  3. トップダウンアプローチ × ボトムアップアプローチ
  4. DataRobotが提供する民主化のためのサービス

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1. AIの民主化で求められる組織とは?

何故DataRobotを使ってAIの民主化をしなければいけないのか? 他の方法があるのではないか? といった疑問を持たれる方も多いと思いますので、従来の方式とDataRobotで導入した場合を比較してみたいと思います。

従来では、「① 外部コンサルティング会社などのデータ・サイエンティストに機械学習を委託する」もしくは「② 自社のデータ・サイエンティストが実施する」といった方式がありました。これらは、回帰分析といった従来の統計手法を数種類使い、モデルの作成やスコアリングを実施します。①の場合は、数千万のコストを支払う事で機械学習システムを導入する事はできますが、自社内でのノウハウが蓄積されないため、他部門で新たな機械学習プロジェクトを発足しようとしても別途コストが発生します。②の場合は、自社でノウハウは蓄積されますが、データ・サイエンティストが数名のみの体制では他部門からの様々な要望を機械学習で対応する事は困難です。

AIの民主化を実現するためには、「③ シチズン・データ・サイエンティストがDataRobotを活用」する事が重要になります。DataRobotはアンサンブル学習やデータ前処理などの組み合わせにより、数千種類の分析手法から最適な予測モデルを生成するので、高い精度の予測モデルを構築する事が可能です。また、DataRobotでは予測モデルの手法や予測の理由を他のメンバーにも分かりやすく共有する事ができます。

図11

DataRobotを利用できるシチズン・データ・サイエンティストを育成する事により、様々な部署のビジネス課題を機械学習で解決する事が可能になります。そのため、シチズン・データ・サイエンティストの育成は会社全体で取り組む必要があり、現場で成果をだせるための組織化は非常に重要です。

2. AIを全社展開するためのロードマップ

シチズン・データ・サイエンティストを育成し、全社に機械学習を展開するためのロードマップについて説明します。ロードマップは大きく分けて3つのステップに分けられます。

図1-8

ステップ1: プロジェクトの成功

ステップ1では、特定のビジネス課題を素早く機械学習で解決し、ビジネス効果を出す実績作りが重要です。しかしながら、ユーザー部門(LoB)からリクエストを受けてもデータ・サイエンティストの人員が限定的なため、個別のビジネス課題しか解決できず、スピード感が乏しく素早く対応できない、といった課題が発生します。

1−1

ステップ2: 組織レベルでの成功

ステップ2では、機械学習を行うデータ・サイエンティストを増やす事によって、様々な課題を機械学習で解決できる体制を構築します。ここでは機械学習の重要性を認識させ、ツールなどの分析環境を整備することも必要です。また、複数のビジネス部門からの課題を解決する事で、ノウハウを集約したり、シチズンデータ・サイエンティストを育成して、課題解決できる人材を増やす事も求められます。

CoE型(Center of Excellence)では、専門組織を設けてLoBからの要望に対応します。データ・サイエンティストは、LoB部門に所属していないため、ビジネスニーズの理解や様々な要望からの優先順位付けに課題があります。

分散型は、各LoBにシチズン・データ・サイエンティスト(CDS)を配置します。この場合はビジネスニーズの理解は早いですが、CDS同士のノウハウの共有が遅れるために、成果物にばらつきが発生するといった課題があります。

図1-2

ステップ3: 民主化の実現

ステップ3では、全社に機械学習による課題解決を可能にするための体制を構築します。シチズン・データ・サイエンティストを各LoBに配置してデータサイエンスとビジネスギャップを埋め、AIプロジェクトの全社展開と導入スピードの向上をさせます。また、CoE組織と各LoBにてナレッジの共有と全体最適を実現します。

ステップ3が成功するための前提として、経営層がAI推進を優先課題として推進してスポンサーする事が決定している状態である事も必要になります。

3. トップダウンアプローチ × ボトムアップアプローチ

それでは、AI民主化を目指すために、どのように進めれば良いかを整理したいと思います。AIの民主化ではトップダウンとボトムアップの両方のアプローチが重要です。

トップダウンアプローチ

トップダウンアプローチでは、エグゼクティブがAI民主化のための組織の必要性、機械学習の自動化によるビジネスインパクト、そして機械学習プロジェクトのスポンサーになってもらう必要があります。

  • ビジネスインパクトでは、AIを導入する事で各プロジェクトがもたらすビジネスインパクトを理解する事が重要です。そのためには、予測の精度が上がる事でどのような現状のビジネス課題が解決できるのか? また、AIを導入する事でビジネスがどう変わるのか?を理解する必要があります。
  • AI組織の必要性では、自社のAIプロジェクトニーズに対して、自社でどれ位データ・サイエンティストが不足しているかを認識する必要があります。また、その上で、自社内でデータ・サイエンティストのノウハウを組織として共有し、シチズン・データ・サイエンティストを育成し、現場で活用できるための体制を構築する事をゴールとして設定する必要があります。
  • また、立ち上がった機械学習プロジェクトに対して、想定されるビジネスインパクトに対して実際のROIがどうだったのか?をプロジェクトのスポンサーとして、エグゼクティブがトラッキングする必要があります。単なるPOCなどの検証ではなく、実ビジネスで効果を出す事を目的としたスポンサーシップが必要です。

DataRobotでは、上記の内容を3−4時間のエグゼクティブ向けトレーニングとして、ワークショップ形式で実施しています。 

図1-4

しかしながらトップダウンだけでは、各ビジネス現場の細かな課題をまとめあげる事は出来ません。AIの予算を立てたので、あとはよろしく!!!といった形で現場が上層部へのレポートを作成するだけのAIプロジェクトや組織は少なくありません。後半のボトムアップアプローチでは、上層部とのギャップを埋めるための方法についてご紹介します。

ボトムアップアプローチ

ボトムアップアプローチでは、ビジネス課題を元に機械学習の自動化を導入する事で現場がどう変わるのか?をプロジェクト発足前に事前に定義します。DataRobotでは、課題設定ワークショップというフレームワークを用いて、機械学習プロジェクトのニーズの掘り起こしを行っています。

このワークショップでは、現状のビジネス課題の設定する事で、機械学習プロジェクト化する価値のあるテーマを探しだし、ユーザー自身がセルフサービス的に機械学習の良いテーマを創出する事を目的としています。なぜ、機械学習プロジェクトが必要なのか? を把握するために、会社におけるビジネス課題を整理する必要があります。それが機械学習で解決できるテーマなのかを洗い出しします。そもそもデータがあるのか?また、予測が正確である事がビジネスに影響を与えられるのか? どのくらい収益が改善されるのか? 実現可能性は? どのプロジェクトから着手するか? 失敗するリスクがあるとしたら、どういったものか?といった様々な問題を整理する事で、実際に機械学習プロジェクトを発足するための要件を事前にまとめる事が可能です。

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課題設定ワークショップを通じて、プロジェクトの責任者であるエグゼクティブスポンサーは、ビジネス課題をまとめた機械学習プロジェクトの必要性を理解し、AIの組織化のためにどれだけの人材が必要なのかといった具体的な根拠を示す事が可能になります。

先ほどトップダウンアプローチでエグゼクティブ向けトレーニングをDataRobotで実施しているといったご紹介をしました。こちらは単発で実施するものではなく、2−3週間後に課題設定ワークショップをビジネス現場で行い、その後2週間後にエグゼクティブ向けトレーニングに参加したメンバーが再度、結果報告会を実施し、どのプロジェクトから始めるのかを説明する場を設けるのが理想的な進め方です。

図1-5

また、プロジェクトを発足した後、それぞれ期待されるROIを元に進捗管理する事も重要です。図1-6

まとめになりますが、DataRobotはトップダウンとボトムアップは両方のアプローチで推進する事を推奨しています。

4. DataRobotが提供する民主化のためのサービス

AI-Driven Enterprise Package AIでは先ほどご説明したステップ1からステップ3までを12ヶ月で実現し、シチズン・データ・サイエンティストを50名育成するサービスが含まれますので、概要を紹介します。

  1. 前期はプラン策定と選抜テーマの成功する事を目的に実施します。ここでは、エグゼクティブに組織・人材のAI受入れ体制診断を通じたAI戦略コンサルと年間プラン詳細策定します。ユーザーのデータ・サイエンティスト(DS)にDataRobotのトレーニングをDataRobot主導で実施します。また、テーマ推進のためにハンズオンでデータ準備からモデル実装までもサポートを実施します。
  2. 中期では、専門組織に向けて25名のシチズン・データ・サイエンティストのトレーニングによる育成を行います。お客様のデータ・サイエンティストがシチズン・データ・サイエンティストに対してプロジェクトをサポートできるようDataRobotのデータ・サイエンティストがコーチングの支援を行います。後期では、各ビジネスの事業部(LoB)への展開を推進します。
  3. 後期も中期同様25名のシチズン・データ・サイエンティストへのトレーニングを行いながら、中期で育成したシチズン・データ・サイエンティストに対して、新しいテーマにおけるコーチング支援を行います。

図1-7

育成するサービスには、AIにおけるビジネス課題の開発支援やモデリングや実装フェーズでの育成、といったコーチングだけでなく、全社に至るAI戦略の策定や組織化コンサルティングなどのAIイネーブルメントが含まれています。

DataRobotは、お客様社内の組織をイネーブルし、AI活用のノウハウを自社の強みにできる組織づくりが可能になるようイネーブルメントを推進し、AIの民主化を支援しています。また、AI技術を実世界の問題に適用することで、新たなソリューションを生み出していくことを推進できるAIアーキテクトという人材を育成するプログラムも提供しております。

ご不明な気になる点やご興味のある部分などあれば、DataRobotまでご質問ください!!最後までお読み頂きましてありがとうございました。

執筆者について
五十嵐 恒(Hisashi Igarashi)
五十嵐 恒(Hisashi Igarashi)

チャネルパートナーディレクター

DataRobot では新規パートナーのビジネス立ち上げなどビジネス・デベロップメントおよび既存代理店とのビジネス協業、Technology Partnerやコンサルティングファームとのアライアンスを担当。マーケティングによるパートナーリードの獲得、パートナー AI 人材育成のためのトレーニング企画および日本主導での認定制度推進。前職(Oracle/Qlik/IBM/Cognos)でもAnalytics 製品の BD/営業として製品横断したソリューションの企画/提案活動を実施。

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