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金融業界における AI 利活用 – 顧客ターゲティング Part 1

2021/03/17
執筆者:
· 推定読書時間 3  分

DataRobot で金融分野のお客様を担当しているデータサイエンティストの香西です。

昨今の金融業界は法律・規制の変更による FinTech 企業や非金融事業者の参入に伴い、顧客獲得競争が激化しております。本稿ではそのような環境下でいかに顧客をターゲティングし、ビジネスで活用していくのかについてご説明します。

AIを活用した顧客ターゲティングとは

既存の顧客ターゲティングにおいては、顧客リストが作成されてから各担当者の勘と経験によってターゲットを決めて DM や訪問営業を実施するといったビジネスフローが一般的です。しかし、既存の手法ではターゲット選定への分析に時間がかかる点や各担当者のスキルに依存しすぎる点が課題として挙げられます(下図1の左側)。

一方で AI を活用した顧客ターゲティングでは、過去のデータから成約や解約に至ったパターンを AI が自動で学習し、将来的に成約や解約につながる顧客を予測するためのモデルを構築します。営業担当者はその予測モデルによって顧客ごとに算出された成約確率などのスコアとその予測スコアに至った説明が付帯する顧客リストを作成することが可能となり、リストに基づいて DM や訪問営業を実施できます。その結果、ターゲットの選定に時間がかかることがなく、各担当者のスキルに依存しない顧客ターゲティングを実施することが可能になります(下図1の右側)。

図1. 顧客ターゲティングにおける新旧ビジネスフローの比較

金融業界における取組事例

ここからは金融業界における顧客ターゲティングの取り組み事例をご紹介いたします。特に昨今ではコロナウィルスの影響による顧客行動の大幅な変化により、従来のやり方だと訪問先や DM の対象者を上手く選定できなくなったとの理由から、数多くの DataRobot のお客様が様々なテーマで取り組んで成功しています。本日はその中からいわゆる『鉄板』のユースケース『優良顧客予測』と『商品提案最適化』の2つをピックアップしてご説明します。

優良顧客予測による営業収益の向上

金融業界には預金、投資信託、株式、保険といった様々な金融商品が存在しますが、これらの商品の購入を検討している顧客を DataRobot によって予測し、優先的に営業活動を行う仕組みを構築することで営業収益の向上を実現した事例です。まず始めに、識別するデータとして

・予測対象と過去一定期間内にある金融商品を”購入した顧客”と”購入しなかった顧客”のフラグ
さらに過去のパターンを学習するデータとして
・顧客属性
・販促状況・過去の口座利用状況
・ビジネス環境
・商品状況… など
のデータを結合したデータセットを用意します(下図2)。

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図2. 用意するデータセットの派生イメージ

それらのデータを DataRobot に投入すると商品を購入しそうな優良顧客に共通するパターンをデータから自動で学習し、予測モデルを構築します。そうすることで、あるお客様では翌月などの新たな顧客リストに AI スコアを適用して優先的に営業活動を行うべき顧客を特定し(下図3)、ターゲット精緻化による営業収益の向上を実現しました。

また、これらのデータ取得から DataRobot への連携、顧客抽出までのフローをシステムで自動化し、週次や月次で自動的に営業職員に情報(ターゲットリスト等)を提供する仕組みを構築することでさらなるビジネスインパクトを創出した事例もあります。

図3. 優良顧客予測の処理フロー

顧客毎にパーソナライズ化した提案による案件成約率の向上

先ほどは単体の商品に対する AI スコアの活用でしたが、次は複数の商品に対する AI スコアを用いることで顧客毎にパーソナライズ化した提案を実現し、案件の成約率が向上した事例です。例えば、銀行の窓口営業で外貨預金と投資信託と保険の3つの商品を保有していたとします。そうした場合に、まず始めに、識別するデータとして

・予測対象と過去一定期間内にある金融商品を”購入した顧客”と”購入しなかった顧客”のフラグ
さらに過去のパターンを学習するデータとして
・顧客属性
・販促状況
・過去の口座利用状況
・ビジネス環境
・商品状況… など

のデータを結合したデータセットを用意します(上図2)。ここまでは1つ目の事例と同様ですが今回は、データセットをそれぞれの商品で用意し、3つの予測モデルを分けて作成します。そして、新たな顧客リストに対して3つのモデルを適用し、顧客 ID で紐づけると各顧客ごとに各商品の購買スコアが算出されます(下図4)。これらの購買スコアをもとに提案商品を選定した結果、顧客のニーズに沿った商品を提案することができるようになり、案件の成約率の向上を実現しました。

図4. 商品の提案最適化事例の処理フロー

金融業界特有のポイント

顧客ターゲティングは金融業界に限らず様々な業界で実施されますが、金融業界特有の要諦が存在します。ここでは3つの要諦をご紹介します。

ルールとの組み合わせ

金融業界では金融商品取引/販売法といった法律に加えて各金融機関毎にも厳格な取引ルール等が定められている場合がほとんどです。それらのルールを予測モデルに学習させてしまうことも一部可能ではありますが、完全に抜け漏れなくルールを網羅することは現実的ではなく外した場合のリスクは非常に大きいです。そのような場合には、AI スコアを振る前に特定の条件を適用させてターゲットリストを調整します。例えば、AI スコアを降順に並べて上から○○人の顧客にダイレクトメッセージを送る施策を打つ場合には、AIスコアを振る前に過去に拒絶された実績がないか、ブラックリストに載っていないかなどのルールを適用し、対象顧客をリストから除きます。その後に上から○○人の顧客を AI スコアをもとに抽出します。このように、逸脱した場合のリスクが高いルールであればなおさら予測モデルと組み合わせて抽出し、抜け漏れがないようにする必要があります。

予測値同士の組み合わせ

先ほどのルールとの組み合わせに発想は近しいですが、複数のターゲティングの予測結果を組み合わせるパターンもあります。例えば、カードローン業界においてリボ払い顧客のターゲティングをしたい場合にリボ払いをしたい顧客を特定し、施策を打って案件が成約したとしても、実は与信リスクが高い顧客でその後、貸し倒れてしまってはコストの方がかかってしまいます。そのような場合には、事前にリボ払いの見込みスコアと与信の貸し倒れスコアを組み合わせ、『リボ払いの見込みスコアが高い、かつ貸し倒れスコアが低い顧客』をターゲティングする必要があります。他にも休眠スコアと復帰スコア、メールの開封スコアと成約スコアなど組み合わせは様々ですが、このように予測値同士を組み合わせることでターゲティングの効果が増幅することがあります(下図5)。

図5. 予測スコアの組み合わせの例 (リボ払い見込みスコアと貸倒れスコア)

バイアスの考慮

金融商品取引法第156条には差別的取扱いの禁止の条項があるように金融商品の販売において、ある特定の顧客のみが恣意的に優先されるといったことはあってはなりません。他方、AI/機械学習モデルが過去のパターンを学習する際にそれらのバイアスを取り込んでしまい、それに気づかずに施策を打ってしまった故に社会的問題に発展した事案が国内外を問わず起きているのも事実です。DataRobot では構築された予測モデルの学習結果に対する解釈性が非常に高いため、このようなバイアスが起きていないかの確認を容易に行うことができます。また最新バージョン(Ver. 7.0)のDataRobot からは、性別や人種といったカテゴリデータから意図しないバイアスが見つかった場合にはクラス間のデータの相違を検知し、バイアスの発生源を容易に特定することが可能です(下図6:バイアスの存在を確認したいカテゴリーデータは予め選択します)。このように、『意図しないバイアス』を考慮してモデリングを行うことは金融業界では特に重要になります。

図6. DataRobot Ver7.0以降でご利用可能なバイアス検知機能

まとめと次回予告

ここまでを纏めると顧客ターゲティングの金融業界における事例と業界特有のポイントについて以下のことをお伝えしてきました。

・金融業界における取組事例
 - 優良顧客予測を活用することにより、営業担当者のスキルに依存しないターゲティングを実現
 - 顧客のリスト化だけでなく顧客毎にパーソナライズ化した提案による案件成約率の向上を実現
・金融業界特有のポイント
 - ルールと組み合わせることでルールを逸脱するリスクを回避する
 - 予測値の組み合わせることでより複雑なパターンにも対応する
 - モデリング結果のバイアスを考慮し、公平性を担保する

本稿では事例やポイントの概要をご紹介しましたが、「金融業界におけるAI利活用-顧客ターゲティング」の次回は具体的なプロジェクトベースでターゲットの設定方法から効果測定、実運用の作法までをまとめてご説明予定です。

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執筆者について
香西 哲弥(Tetsuya Kozai)
香西 哲弥(Tetsuya Kozai)

データサイエンティスト

DataRobot データサイエンティストとして、主に金融業界のお客さまの AI 活用/推進をご支援。メガバンクと外資系コンサルティングファームでの勤務を経て現職。これまで、AI 導入に向けた組織改革から数理モデリングの技術支援、実運用化支援まで幅広い業務に従事。

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