DataRobotでデータサイエンティストをしていますオガワミキオです。
データ活用を企業に根付かせたい、あらゆる部門にAIを浸透させたいという想いをもつ企業は近年どんどん増えてきています。私も多くの企業と一緒にその想いを実現するために働いていますが、中には思ったようにうまく展開できていなかったり、次のステップを目指す上でなにが足りないのか明確になっていない方々も少なくありません。本ブログでは、AI推進CoEのタイプごとの強み弱みやアンチパターン等について説明し、自社の組織が目指すべき方向性についての考え方をご紹介していきます。
AI推進CoEに見られる3つの成り立ちパターン
私達がたくさんのAI推進CoE組織にかかわらせていただいている中で、大きく分けると3つのパターンから成り立っていることがわかりました。それぞれのパターンにおける長所と短所に対する理解も深まってきましたので、まずはその様な既存CoEパターンそれぞれについて見ていきましょう。
IT部隊をベースとしたCoE組織
一つ目に紹介するパターンは会社のIT・システム部隊をベースにしたAI推進CoE組織です。IT・システム出身者はデータベース管理などデータと関連性が深く、「データ活用」という文脈から従来のデータ管理の発展系を担う人材として選ばれます。主に金融業界、テック企業のお客様で多いパターンとなります。
強み
- 社内の幅広いデータを利用できる
- 複雑なデータ加工も行うことができる
- デプロイ後のシステム化を担うことができる
- 社内全体への新規システムの周知と提供を行える
弱み
- LoBとの距離があり、課題の明確化に時間を有する
- ビジネスインパクトの大きい、よいテーマを収集することが難しい
- 分析の実施や支援に関してのスキルが弱い
- データの本質的な意味や部門独自の文化を捉えきれない
特に気をつけたいアンチパターンとしては、従来のIT・システム部門との延長という形から、ツールが変わっただけで業務への取り組み姿勢がまったく変わっていない状態のチームとなることです。ビジネス活用に意識をシフトできず、自身の分析スキルをあげるモチベーションもない状態では社内でのデータ活用はほとんど浸透しません。
「ツールを配っただけ」という言葉を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか?IT部門がどこの企業にも存在し、既存組織をあまり弄らずに作れるというハードルの低さから最もアンチパターンにハマるケースが多いと感じています。まずは他人事意識を捨てて、「管理」から「活用」にミッションが変わったという自覚を持って、従来業務を大きく超えた活動がアンチパターン脱却のポイントとなります。
LoBメンバーをベースとしたCoE組織
二つ目のパターンは、各LoBより分析に知見のあるメンバーを選抜したAI推進CoE組織です。各LoBから万遍なくテーマを吸い上げたい時に、素養のあるメンバーを募って、高度なAIスキルに関してはチーム構築後に育てていくことを前提としたケースです。小売、通信などマーケティング職の強いお客様でよくみられます。
強み
- ドメイン知識が高くよいテーマを収集できる
- 分析をLoB側とうまく分担することができる
- 課題をしっかりと機械学習プロジェクトに落とすことできる
- LoB側を意識したデプロイの形を提案できる
弱み
- 高度なテーマには挑戦しづらい
- 組織外のベテラン分析官への説得力が弱い
- 社内横断してのデータ状況への把握ができていない
- データ収集、加工スキルに不安がある
気をつけたいアンチパターンとしては各LoBからメンバーを募る際にLoB側に影響が出ないように入社数年目の若手だけを集めてしまい、最大の強みとなるLoBとのコネクションが弱いチームとなってしまったケースです。実際に若手だけCoE組織が、多部署を全くコントロールできずにタスクを全部丸投げにされてしまい、疲弊していくだけで結果を残せない様子もみてきました。
皆様も自分の部署から人を出しなさいと急に言われた時にはなかなか部署のエースを快く出すことはできないのではないでしょうか?ただ、そこは部署ごとの苦労も将来の会社のためにと、よいメンバーをしっかりと会社として募っていくことが成功への最大のポイントです。
R&D部隊をベースとしたCoE組織
最後に紹介するパターンは会社のR&D部隊をベースにしたAI推進CoE組織です。データ分析の活用を全社的に進めたいとなった時に、データや分析に深い知見を持っているR&D出身者を集めてできるケースです。主に製造業のお客様でよくみられます。
強み
- 分析に強く高度なテーマに挑戦できる
- モデル作成の実行やレビューと技術的な支援に困ることが少ない
- データ準備の支援を行える
- センサーデータなど特殊なデータへの加工力も長けている
弱み
- LoBとの連携が弱く、分析の分業がうまくできない
- ビジネスインパクトの大きい、よいテーマを収集することが難しい
- システム連携が弱く、新しいツール導入の難易度が高い
- デプロイに向けての要件定義が具体化しづらい
よくあるアンチパターンとしては分析経験が高いメンバーだけを集め、精度の高いモデルを作ることに固執しすぎたチームとなることです。また似ているケースとしてビジネス活用に意識をシフトできず、AIを研究することが目的となることもあります。このような組織は個人個人は楽しそうに各々の業務を行なっているのですが、LoBとの連携にモチベーションを感じていなかったり、ビジネスインパクトを出すことからどんどんと意識が薄れている可能性があります。
LoB側の人はR&Dが今何をしているかわからない、R&D側の人はLoBにわざわざわかってもらう必要はないなどと考えていないでしょうか?結局何をしてくれるのかよくわからない状態では、信頼もへったくれもありません。研究から分析のビジネス活用にミッションが変わったという意識を元によりビジネスマインドを持った状態にすることが重要です。
自社に最適なAI推進CoE組織とは?
では自社ではどの様なCoE組織を作ればいいのでしょうか?ここからは、典型的なパターンの話から離れ、そもそもAI推進CoEに何が求められているのかを考えてみましょう。
組織へのAI推進に関しては、ビジネス全体に大きな影響を与える戦略立案から、テーマの発掘や新たな人材の育成も担う必要があります。CoEとして社内全体の状況も把握しながらより大きな影響を社内に与えるためのプランニングも実施していく責任を持つべきです。
AIテーマの実行に関してはデータの加工、モデルの作成やレビュー、レポーティング、デプロイ実施などAIテーマのステージを進める上で必要となることを行います。形としては、支援のみのケースもありますが、実際にデータをCoE組織で受領して分析を実施していく形もあります。
AI基盤の構築に関しては、機械学習基盤だけでなく、それを支えるデータ基盤構築も担う必要性もあります。細かい部分ではテーマの進捗と合わせてのビジネスインパクトから、既存のライセンスがペイバックできているかなどのライセンス管理もミッションとなります。
AI組織なんていうと分析ばかりを行なっているケースやツール選定だけしているケース、啓蒙活動のみで実行には責任を持たないなど極端な組織をイメージするかもしれませんが、重要なのはバランスです。元々CoEとは、大学などの教育期間では優秀な人材と最先端の設備環境を集約した世界的研究拠点を指していた用語です。ワンミッションな業務ではなく、スペシャリティを持ちつつオールラウンダーというその組織における優れたプレイヤーが担うことが成功の鍵となります。
AI推進CoE組織が意識するテーマ実行状況
推進や基盤構築というとイメージが湧きやすいかもしれませんが、AIテーマの実行というと具体的にどうやって管理するのはイメージがつかない方も多いのではないでしょうか?DataRobot社では、お客様を支援する際にテーマごとの進捗状況を11ステージで管理しています。そしてステージごとのテーマ数やテーマの進捗数、デプロイ数とデプロイされて生み出されたビジネスインパクトをKPIとしています。CoE組織としてAIテーマの実行としてどういったものを意識するべきか悩まれている場合にはまずは弊社方式で試していただければと思います。試していく中で社内文化としてよりマッチしたKPIを選択していただくのが良いでしょう。
CoE組織が目指す方向性は何に影響されるのか?
CoE組織が様々な役割をもつなかで、実際には各会社の状態によって目指すレベル感は変わってきます。変わる理由としてはいくつかありますが、大きくは提供サービスの内容、トップダウンの強さ、社内リソースの状況の三つが大きなウェイトを占めます。
提供サービスの内容:その企業が提供するサービスが単一や少数、利益構造がシンプルな場合には必然的にAIを活用するテーマは少なくなります。その分、テーマ一つ一つの精度を磨いていくことが重要な差別化になる可能性が高く、既存のモデルをよりよくしていけるようなスキルの高い分析担当者が必要になります。逆に多くのサービスを提供している場合には、一つのテーマが各サービスに横展開できますし、レコメンドやクロスセル、マッチングのような複数サービスが存在するが故に生まれるテーマなどもあるため、多くのテーマを捌ける体制を築く必要があります。
トップダウンの強さ:組織を作るというのはモチベーションの高い人だけが勝手に集まってサークルのように自由に行うものではないため、トップダウンの強さも目指せる方向性として大きな影響があります。企業によっては、素直に全LoBから担当を引っ張ってきたいと思っていても、組織構造上、部門間の独立性が高く、その部門に閉じたCoE組織となるケースは少なくありません。ただ、昨今はデータ活用への全社的な機運も高まり全社横断でメンバーが集められたという話も増えてきています。
社内人材リソースの状況:最後に社内の人材の性質としても目指す方向性は変わってきます。こちらはCoE組織のメンバーだけに閉じた話ではなく、全社的にデータや分析への知見が高い人がどれくらい占めているかに関わります。テクノロジーカンパニーなどはその名前の通り、知見の高い人が多くを占めるケースが多いですが、日本の伝統企業の多くは技術者の比率が少ない傾向にあります。このような差からテクノロジーカンパニーと日本の伝統的企業が同じようなCoE組織を作成してもうまくいきません。全社的なリテラシーの高いテクノロジーカンパニーではセルフサービス化を基本戦略としてCoE組織にそこまでウェイトを置かない方式も成り立ちますが、そうでない企業では啓蒙活動、分析の代行、きめ細かいサポートなどが重要となるためCoE組織に求められる機能の多様性も規模も大きくなります。
今のCoE組織の現状とビジョンを合わせていく
方向性がバラける要因について説明しましたが大事なことはその中で現状とビジョンが具現化されていることです。
先にCoE組織が満たすべき役割について紹介しましたが、それぞれのレベル感が現在どの状態にあるのか、また目指していきたい姿がどのような状態なのかチーム内で共有化することは重要です。参考までにいくつかの具体例を元にどのような体制からどのような性質を持っているかについて紹介していきます。
分析専門型
潜在的テーマ数が少なく、同時実行しないといけないテーマが多くない場合に有効な体制です。全社的な人材教育よりも、集約した高度な人材で分析を実施してしまう体制となります。捌けるテーマの数は少ないのでテーマの数よりも精度の質が重視されるミッションを持つことになります。体制としても分析力の高いメンバーを多く抱える必要がありますが、それ以外のLoBとの調整や基盤管理のメンバーは最低限のメンバーで済みます。R&D部隊をベースにしたパターンだとこのタイプを目指しやすいです。
展開推進型
潜在的テーマ数が多く、同時実行しないといけないテーマが多い場合に有効な体制です。全社的な啓蒙活動や人材教育も実施していく体制となります。テーマ数を探し、捌けるテーマ数をどんどん増やしていくために、LoBの状況をよく理解したコミュニケーション能力も高いメンバーを多く抱える必要があります。LoBとのやりとりが最も多くなりますが、それ以外にも分析担当、基盤管理担当、教育担当と多くのメンバーが必要になります。会社規模にもよりますが、AI推進CoE組織のメンバーだけで10〜30人程度の規模になります。LoBメンバーをベースにしたパターンだとこのタイプを目指しやすいです。
基盤提供型
潜在テーマ数は多いものの、難易度が低い同パターンのテーマが多い場合や、CoE組織外のメンバーのスキルも高い場合にとるのが有効な体制です。企業にあった基盤の構築と基盤自体が何ができるかの啓蒙活動、どう操作するかの教育は実施していく体制となります。セルフサービスを前提としているため、LoBのビジネス状況よりもスキルセット状況を正確に把握している必要があります。基盤として足りないもののニーズを正確にとらえ、タイムリーに発信していくことが重要になります。展開していきたい部門のスキルが高くない場合には、そこを支援する人材が必要になりますが、基盤構築に関わるメンバー以外には、啓蒙活動、プロジェクト管理が得意なメンバーが必要になります。IT部隊をベースにしたパターンだとこのタイプを目指しやすいです。
まとめ
AI推進CoE組織のパターンごとの違いについて見てきましたが、多くの企業でとりあえず作らないといけないから作りやすい体制から作ってみたというのをよく見てきました。このパターンに近い、すでにアンチパターンにハマりかけているなどの気づきはあったでしょうか?幸運なケースとして、たまたま作った体制がその企業における理想的なAI推進CoE組織になっていることもありますが、そうなっていなかった時にこの記事がどうしてうまく行っていないかに気づくきっかけになればと思います。
これから作っていくという企業ももう作ってしまった企業も一度自社のAIロードマップを考えた後に、ミスマッチしてしまいそうな部分を埋めるための人材や伸ばすべきスキルセットを見つめ直していただければ幸いです。加速度的な成功を掴むために、一部足りない部分を外部支援で埋めていくことも戦略として有効です。そして外部支援に頼っている部分を何年プランで内製化していくのかも明確にし、組織としてしっかりと目標をもって進んでいくことが、AI推進CoE組織、延いては企業の成功につながります。
メンバー募集
DataRobotではAIの民主化をさらに加速していくメンバーを募集しています。データサイエンティスト、マーケティングから営業まで多くのポジションで募集していますので、興味を持たれた方はご連絡ください。
執筆者について
小川 幹雄
DataRobot Japan
VP, Japan Applied AI Experts
DataRobot Japan創立期に立ち上げメンバーとして参画。インフラからプロダクトマネジメント業、パートナリング業までDataRobotのビジネスにおけるあらゆる業務を担当し、ビジネス拡大に貢献。その後、金融業界を担当するディレクター兼リードデータサイエンティストとして、金融機関のお客様のAI導入支援からCoE構築支援をリード。2023年より、全てのお客様における価値創出を実現するため、日本のAIエキスパート部門の統括責任者に就任。豊富なAI導入・活用支援のノウハウから公共機関、大学機関における講演も多数担当。2022年より一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)における企画出版委員会の副委員長に就任。
小川 幹雄 についてもっとくわしく