AIエージェント:夢の実現か、それとも幻影か? 私たちの生活とビジネスの未来

2025年2月21日
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DataRobot Japanの副社長をしています小川です。AIエージェントという言葉が、私たちの日常に浸透しつつあります。ChatGPTやGoogle Bardのような高性能AIの登場により、まるでSF映画に出てくるアンドロイドのように、AIが私たちの生活や仕事を劇的に変える未来を想像する人も少なくありません。

例えば、AIエージェントが優秀な秘書のように、複雑なタスクをこなし、私たちをサポートしてくれる未来。レストランの予約から旅行の手配、さらには日々のスケジュール管理まで、AIエージェントが全てを代行してくれる。そんな未来を想像すると、胸が高鳴ります。

しかし、AIエージェントの進化はまだ始まったばかりであり、その影響を過大評価することは危険です。AIエージェントは、まだ多くの課題を抱えており、私たちの生活やビジネスにとって、真に革命的な変化をもたらすには、時間がかかるかもしれません。

本稿では、AIエージェントがもたらす変化の実態と、それを効果的に活用するための方法について考察し、過度な期待と現実の狭間で、AIとどのように向き合っていくべきかを考えていきます。

AIエージェントの種類と特徴

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AIエージェントは、大きく分けて2つのパターンに分類できます。

1. アプリ補助としてのエージェント

特定のアプリケーションに組み込まれ、その機能を補助するAIエージェントです。例えば、Office製品のCopilotは、文章作成や表計算などの作業をサポートし、PhotoshopのAIエージェントは、画像編集を効率化します。

アプリ補助型AIエージェントは、特定のタスクに特化しているため、高い専門性と効率性を誇ります。まるでそのアプリの熟練の職人のように、私たちの作業を陰ながら支えてくれる存在と言えるでしょう。

2. フレームワークとしてのエージェント

複数のアプリケーションを横断的に操作し、連携を管理するAIエージェントです。例えば、Salesforceと連携し、顧客情報を自動的に収集・分析するAIエージェントや、Slackと連携し、チーム全体のコミュニケーションを円滑にするAIエージェントなどが挙げられます。

フレームワーク型AIエージェントは、複雑なワークフローを自動化し、業務全体の効率化を図る上で重要な役割を果たします。まるでオーケストラの指揮者のように、様々なツールをまとめ上げ、最適なパフォーマンスを引き出す存在と言えるでしょう。

AIエージェントを支える「AIツール」

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フレームワーク型AIエージェントが能力を発揮するためには、様々な「AIツール」との連携が不可欠です。AIツールとは、AIエージェントが利用する個々の機能やサービスを指します。

AIツールは、大きく以下の5つの処理に分類できます。

  1. 情報収集/検索: 社内外のデータベースやWebサイトから、必要な情報を収集・検索します。
  2. プログラム: プログラム言語やAPIを用いて、システムやサービスに接続し、操作を実行します。
  3. 予測AI: 過去のデータに基づいて、将来の出来事を予測します。
  4. 生成AI: 自然言語処理技術を用いて、文章や画像を生成します。
  5. 集計/演算処理: 数値データの集計や分析、数理最適化を行います。

AIエージェントとこれらのAIツールを適切に組み合わせることで、様々なタスクを自動化し、私たちの生産性を向上させることができます。

AIエージェントのカプセル化

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AIエージェントは、複数のAIツールを組み合わせて、より複雑なタスクを処理することができます。そして、複数のAIツールを使うAIエージェントを、さらに一つのAIツールとして扱うことを「カプセル化」と定義します。

例えば、あるAIエージェントが「データベースの表を検索」、「表の列を検索」、「SQLを実行」、「出力結果をチャート化」という検索やプログラムを組み合わせたものだとします。このAIエージェントは、俯瞰して見ると「データベースと会話してチャートを出力してくれるエージェント」と考えることができます。

この場合、このAIエージェントを一つのツールとして扱い、「サプライチェーンシステムに出力結果を投入する」「シフト計算を行う」「担当者にメールを送付する」といった別のAIツールと連携させることで、さらに高度なAIエージェントを構築することができます。

カプセル化を行うことによって、開発範囲や影響範囲がわかりやすくなるため、複雑なAIエージェントを開発する場合には重要な視点となります。

オーケストレーションを行うAIエージェントは、必ずしも一つである必要はありません。複数のAIエージェントが連動することで、より複雑で高度なタスクを処理することができます。その際には、カプセル化によってAIエージェントを階層的に管理することで、開発効率と保守性を向上させることができます。

AIエージェント連携の重要性と難しさ

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AIエージェントをフレームワークとして活用する場合、どのAIツールが連携できる状態にあるか、そしてそれぞれのツールの実行成功確率がどれくらい高いかによって、業務をどこまで自動化できるかが決まります。

しかし、ツールを連携していく中で、それぞれのツールの実行成功確率だけでなく、ツール同士の相性も重要になります。例えば、「電車での移動時間を計算してくれるツール」と「タクシーでの移動時間を計算してくれるツール」の2つが利用できる場合、状況に応じて適切なツールを選択する必要があります。

もし、会社から顧客先への移動ルートを聞かれた際に、電車移動しか許可されていない距離であるにも関わらず、AIエージェントが誤って「タクシーでの移動時間を計算してくれるツール」を実行してしまう可能性があります。

このように、AIエージェントは、様々なツールを適切に連携し、状況に応じて最適な判断を下す必要があります。そのためには、ツール同士の相性を考慮するだけでなく、AIエージェント自身が学習し、成長するための仕組みが重要になります。

ビジネス vs 私生活:AIエージェントのインパクトの違い

AIエージェントは、ビジネスと私生活の両方において、私たちの生活に大きな影響を与える可能性があります。しかし、そのインパクトは、ビジネスと私生活で大きく異なることが予想されます。

ビジネスにおけるAIエージェントの活用

ビジネスにおいては、AIエージェントは、定型業務の効率化や顧客対応の質向上に貢献することが期待されています。例えば、コールセンター業務において、AIエージェントが顧客からの問い合わせ内容を分析し、適切なオペレーターに引き継ぐことで、対応時間の短縮や顧客満足度の向上につながります。

また、経理業務においては、AIエージェントが経費精算や請求書処理を自動化することで、担当者の負担を軽減し、業務効率を向上させることができます。

私生活での限界
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一方、私生活においては、AIエージェントはまだ補助的な役割に留まる場面が多いのが現状です。AIエージェントによるレストラン予約やオンラインショッピングのサポートなどは、すでに実用化されていますが、生活全体にまたがる多様なタスクに対応するには、まだ限界があります。

例えば、AIエージェントに今日の献立を考えてもらうことはできますが、冷蔵庫にある食材や家族の好みを考慮して、栄養バランスの取れた献立を提案するには、高度なAI技術が必要になります。

また、AIが全てを自動化してくれることが、必ずしも私たちにとって最良の体験とは限りません。例えば、コーヒーを自動で淹れるマシンを使っていた人が、手動ミルに戻すケースもあります。これは、数分の手間やルーチンが、生活に楽しみを与えてくれることに気づくからです。AIが全てを自動化できても、私たちが重視する体験を完全に代替できるわけではないのです。

変わらないもの、そしてAIとの向き合い方

効率化が進む中でも、ビジネスにおいて変わらないものがあります。特に重要なのが、表敬訪問やFace-to-Faceのやり取りです。これらは、信頼関係の構築や微妙な感情の共有が求められる場面であり、AIでは代替が難しい領域です。重要な交渉や意思決定では、人間の感性と直感が引き続き重要な役割を果たします。

AIエージェントは、特定の業務を効率化し、ビジネスの生産性を向上させる大きな可能性を秘めています。しかし、その効果を最大化するためには、AIを正しい領域に導入することが重要です。「アプリ補助としてのエージェント」と「オーケストレーションとしてのエージェント」を理解し、適切な選択をすることで、AIの真価を発揮できます。AIは万能ではありませんが、適切な用途で使えば、私たちの働き方や業績に大きな価値をもたらすでしょう。DataRobot社もAIアプリテンプレートでのエージェントアプリ(“データと会話するAIエージェント”)の提供や Agnostiqの買収などエージェントへの投資を強めています。

AIを活用する企業として、私たちは技術の可能性と限界を正しく伝えながら、お客様の課題解決に寄与していきます。

DataRobotのAIエージェントについては、以下のブログやプレスリリースもご覧ください。

AIエージェント:現実のビジネスへの影響、エンタープライズ対応のソリューション
DataRobot、生成AIアプリを開発・提供するためのEnterprise AI Suiteを発表

執筆者について
小川 幹雄
小川 幹雄

DataRobot Japan
VP, Japan Applied AI Experts

DataRobot Japan創立期に立ち上げメンバーとして参画。インフラからプロダクトマネジメント業、パートナリング業までDataRobotのビジネスにおけるあらゆる業務を担当し、ビジネス拡大に貢献。その後、金融業界を担当するディレクター兼リードデータサイエンティストとして、金融機関のお客様のAI導入支援からCoE構築支援をリード。2023年より、全てのお客様における価値創出を実現するため、日本のAIエキスパート部門の統括責任者に就任。豊富なAI導入・活用支援のノウハウから公共機関、大学機関における講演も多数担当。2022年より一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)における企画出版委員会の副委員長に就任。

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